アミモンガラのCaligus polycanthi ウオジラミ科(Caligidae)の一種
アミモンガラ魚類から得られたカイアシ類、2個体の標本を中野光様より頂きました(Fig. 1, 2)。水族館にてアミモンガラを淡水浴して脱離した個体とのことです。筆者はこれをウオジラミ科(Caligidae)の一種、Caligus polycanthi Gnanamuthu, 1950と同定しました(後述)。Caligus canthidermis Yamaguti & Yamasu, 1959は本種のシノニムです(Lin & Ho 1997)。標本の2個体は、雌雄1個体ずつです。ウオジラミは宿主からは、雄を得られにくいので(詳しくは記事 No. 30)、今回はラッキーでした。淡水浴ということで寄生部位は不明ですが、中野光様が別に得たアミモンガラの臀鰭からウオジラミを見つけています。宿主特異性を考えると、このウオジラミはC. polycanthiかもしれません。報告では、寄生部位は体表と口腔ですが(Yamaguti & Yamasu 1959;Shiino 1959;Ho 1966)、Ho(1966)は腹鰭と臀鰭から採れたとあるので、鰭によく寄生するのだと思います。ネットで検索してみると鰭に寄生しているC. polycanthiと思われる個体を見受けました。
C. polycanthiは和名「モンガラカワハギウオジラミ」です(長澤ら 2010)。モンガラカワハギ科の魚類に寄生することに因んでいます。一方で、コバンザメからも報告があるので(Pillai 1985)、モンガラカワハギ科のみが宿主ではないようです。日本、台湾、インドで出現します。報告のある宿主を以下にあげます。[ ] 内に文献を記します。
- ・Aluterus scriptus(ソウシハギ)[Ho 1966;長澤ら 2010]
- ・Canthidermis maculata(アミモンガラ)[Gnanamuthu 1950; Yamaguti & Yamasu 1959]
- ・Echeneis sp.(コバンザメの一種)[Pillai 1985]
- ・Pseudobalistes fuscus(イソモンガラ)[Shiino 1959]
体長は、雌5.44 mm、雄5.90 mmでした。報告では雌2.51-4.9 mm、雄2.20-3.72 mmとあります(Gnanamuthu 1950, Yamaguti & Yamasu 1959;Shiino 1959;Ho 1966;Pillai 1985)。報告にある体長よりも大きいです。
C. polycanthiは3つの独特な形質をもちます(Lin & Ho 1997)。すなわち、①postmaxillary processがあること(Fig. 3)、②sternal noduleがあること(Fig. 4, 5)、③第1胸脚外肢の末端節の棘の内側に微細な毛、外側に薄膜があることです(Fig. 6)(ウオジラミの体制は過去の記事No. 38を参照)。ただし、postmaxillary processはC. amblygenitalisとC. planktonisで見つかっています(Pillai 1985)。
口のすぐ近く、postoral processのそばに本種の特徴のひとつpostmaxillary processがある。以降のFigのC. polycanthiは乳酸透明化してある。
Boxshall(2018)とOhtsuka & Boxshall(2019)はCaligus属を6つのspecies-groupに分けました。C. bonito-group、C. confusus-group、C. diaphanus-group、C. macarovi-group、C. productus-group、C. pseudorhombi-groupです。各グループの特徴については過去の記事No. 28を参照して下さい。今回のC. polycanthiは第4胸脚が3節(外肢2節)で構成し、末端節の棘が3本だったため(Fig. 7)、C. macarovi-groupだと分類できました。Boxshall(2018)でもC. polycanthiをC. macarovi-groupに分けています。以前に筆者はC. macarovi-groupの種、Caligus macarovi(記事 No. 29)とCaligus orientalis(記事 No. 32)を観察しています。それぞれ、サンマに寄生しているところ、東京湾でのプランクトン採集から得ました。
Fig. 8に頭部先端部の写真を載せます。frontal plate(前額板?)となる部位にlunuleと第1触角があります。lunuleは宿主に寄生しはじめるときに使われます(Ohtsuka 2021)。仮吸着の役割です(詳しくは過去の記事No. 38を参照)。frontal plateの後方に第2触角と、そのすぐ近くにpostantennal process(後触角突起?)があります。第2触角はlunuleと同様に仮吸着として働くようです。postantennal processはCaligidae(ウオジラミ科)で普通に見られるもので、自由生活性のカイアシ類(たとえばカラヌス)にはありません。
対にある第2触角の間に口、口錐(mouth coneまたはmouth tube)があります(Fig. 9, 10)。Fig. 10は雄の口錐であり、大顎にフォーカスを当てて撮影しました。ここに小さな大顎があります。Caligidae(ウオジラミ科)では一般的に大顎は12歯で構成しています。今回のC. polycanthiも12歯です。一方で、筆者がTrebius akajeii(Trebiidae;サメジラミ科)で大顎を観察したところ12歯でした(記事No. 39;大顎の写真は記事No. 38のFig. 1)。
生殖節の後端には痕跡的な第5胸脚と第6胸脚がありました(Fig. 11)。雄では雌よりも発達的で(Fig. 12)、外観でも確認できます(Fig. 2)。ただし、Ho(1966)では雄において片方の第5胸脚と第6胸脚が欠損しており、この付属肢は取れやすいようです。
筆者が以前に同科のLepeophtheirus hospitalisを観察したときは雌の産卵孔(Fig. 11)の近くで精包が付着していたのを確認しました(記事No. 36, Fig. 4)。Ho(1966)はC. polycanthi 2個体の未成熟の雌(カリムス幼体)♀♀のすべてに精包が付着していたと報告しています。ただし、この個体は付属肢や生殖節の発達具合から成体の雌なのかも知れません。LinとHo(1997)におけるC. polycanthiの全カリムス期の記載からも、その形態の比較からカリムス幼体とは言い難いです。Ho(1966)はカリムス期に特有のフィラメント(前額糸)を頭部先端にもつことでカリムス幼体としています。普通、成体になると、その時の脱皮とともにフィラメントは失うので、そう考えたのだと思います。一方、LinとHo(1997)は、C. polycanthiの成体でフィラメントを確認しており、成体になってもフィラメントを保持することがあるのではと示唆しています。いづれにしろ、精包が付着しているのは、成体だとみるのが良さそうです。
文 献
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