2021年12月30日
No. 36

NOTE

カレイ魚類のウオジラミLepeophtheirus hospitalis 寄生性カイアシ類Caligidae(科)の一種

Lepeophtheirus hospitalis Fraser, 1920 雌成体は市場で北海道産クロガレイ、Pseudopleuronectes obscurus (Herzenstein, 1890)から得られました(Fig. 1)。寄生部位は体表(Fig. 2)、体長は4.80 mm。報告されている体長は、雌で4.70 -6.37 mm、雄で2.70-3.34 mm(Yamaguti 1936;Voth 1972;Lopez 1976;Margolis & Kabata 1988)であり、その範囲内でした。

クロガレイの体表に寄生していたLepeophtheirus hospitalis雌成体
Fig. 1 クロガレイの体表に寄生していたLepeophtheirus hospitalis雌成体
クロガレイの体表に寄生しているL. hospitalis
Fig. 2 クロガレイの体表に寄生しているL. hospitalis
矢印の先にいる。

Lepeophtheirus属は頭部前端に吸盤(lunules)を持たず、第1、4胸脚が単肢型、腹部(頭胸部の次に肥大した節、生殖節の次の部分)は1節あるいは2節で構成していることが特徴です(Wilson 1905)。上位分類のCaligidae(ウオジラミ科)ではCaligus属に次ぐ種数です。日本では筆者調べで22種が出現します(記事No. 28)。今回で見つけた種、L. hospitalisは1936年に日本から報告されましたが(Yamaguti 1936)、これ以降、報告はされていないようです。

Yamaguti(1936)は本種をLepeophtheirus kareiiとして記載しています。カレイから見つけたことに因んだ学名ですが、現在はL. hospitalisのシノニム(同種異名)として扱われ、無効名になっています(Johnson 1991)。和名はありません。

頭部腹側には口唇、大顎、小顎、顎脚からなる口器があり(Fig. 3)、顎脚は2対ありました。一般的なカイアシ類は、顎脚は1対のみです。

L. hospitalisの口器
Fig. 3 L. hospitalisの口器

生殖節の後縁には第5、6胸脚がありました。いずれも脚として機能しなさそうです。第6胸脚下に産卵孔があるようですが確認できませんでした。第6胸脚は生殖蓋としての役割があるのかもしれません。胸脚がある位置から近位にカプセル状の構造がありました。これは、精包とのことです(Schram 2020)(Fig. 4)。

L. hospitalisの生殖節後縁
Fig. 4 L. hospitalisの生殖節後縁
第5、6胸脚とその近くに精包がある。

L. hospitalisの記載(Yamaguti 1936;Voth 1972;Lopez 1976;Margolis & Kabata 1988)から本種は、第2触角の末端に1本の棘(Fig. 5)、小顎は2つに分岐し等長(Fig. 3)、第3胸脚の基部にある1本の棘に付属する他の構造が無く(Fig. 6)、第4胸脚は外脚3節で構成し棘は各節1, 1, 3であり、最末端の棘より2番目の棘の方が長い(Fig. 7)ことが同定のキーになりそうです。また、叉状突起(sternal furca;位置は記事No. 28を参照)の分岐した部分は葉状になることが特徴のようです(Fig. 8)。

L. hospitalisの第2触角
Fig. 5 L. hospitalisの第2触角
矢印は刺毛を指す。
L. hospitalisの第3胸脚
Fig. 6 L. hospitalisの第3胸脚
矢印は第3胸脚の基部にある棘を指す。
L. hospitalisの第4胸脚
Fig. 7 L. hospitalisの第3胸脚
矢印は棘を、* は外肢の節を指す。
L. hospitalisの叉状突起(sternal furca)
Fig. 8 L. hospitalisの叉状突起(sternal furca)

Voth(1972)はL. hospitalisの生活史を記録しています。孵化後、2日間ノープリウス幼生(2期)で過ごし、コペポデット幼体(1期)になると宿主に付着後6日でカリムス幼体(6期)に。20日以上で成体になるとのことです。ノープリウス幼生第1期は6時間程度で第2期になり、第2期での脱皮の速度は遅くなりますが、カリムス幼体では第1期で脱皮するのに6日半かかるのが、第6期では1日で脱皮し、早まります。卵数は26-96個で、3回、産卵し、次の産卵までに10-25時間かかるようです。寿命については分かっていませんが、半年生きると、Voth(1972)は季節的消長から推定しています。

Love & Moser(1976;1983)で魚類に寄生する生物をまとめています。ここでのL. hospitalisの宿主と、筆者調べで分かった宿主を以下にあげます。文献は [ ] 内に記します。主にカレイに寄生するようですが、タラやボラからの報告もありました。今回のクロガレイからは報告にありませんでした。


  • ・マダラ Gadus macrocephalus [Fraser 1920]
  • ・シュムシュガレイ Lepidopsetta bilineata [Kabata 1973]
  • ・ボラ Mugil cephalus [Kabata 1973]
  • ・イギリスガレイ Parophrys vetulus [Kabata 1973]
  • ・ヌマガレイ Platichthys stellatus [Fraser 1920; Voth 1972]
  • ・イシガレイ Platichthys bicoloratus [Yamaguti 1936]
  • ・メイタガレイの一種 Pleuronichthys coenosus [Fraser 1920]
  • ・クロガレイ Pseudopleuronectes obscurus [本記事]
  • ・マコガレイ Pseudopleuronectes yokohamae [Yamaguti 1936]

文   献

Johnson SC (1991) The Biology of Lepeophtheirus salmonis (Krøyer, 1837) (Copepoda: Caligidae). Doctoral thesis, Simon Fraser University. 214 pp.

Lopez G (1976) Redescription and ontogeny of Lepeophtheirus kareii Yamaguti, 1936 (Copepoda, Caligoida). Crustaceana, 31 (2): 203-207.

Love MS, Moser M (1976) Parasites of California Marine and Estuarine Fish. Faculty Publications from the Harold W. Manter Laboratory of Parasitology, 749. University of Nebraska, Lincoln. 520 pp.

Love MS, Moser M (1983) A Checklist of Parasites of California, Oregon, and Washington Marine and Estuarine Fishes. NOAA Technical Report NMFS SSRF-777. 576 pp.

Margolis L, Kabata Z (1988) Guide to the parasites of fish of Canada, Part II. Crustacea. Can. Spec. Publ. Fish. Aquat. Sci., 101: 184 pp.

Schram TA (2020) The egg string attachment mechanism in salmon lice Lepeophtheirus salmonis (Copepoda: Caligidae). Contribut. Zool. 69 (1/2): 21-29.

Yamaguti S (1936) Parasitic copepods from Fishes of Japan, Part 2. Caligoida, I. 22 pp. 12 pl.

Voth DR (1972) Life History of hte Caligid Copepod Lepeophtheirus hospitalis Fraser, 1920 (Crustacea: Caligoida). Doctoral thesis, Oregon State University. 114 pp.

Wilson CB (1905) North American parasitic copepods belonging to the family Caligidae. Part I, the Caliginae. Proc. U. S. Nat. Mus., 28 (1404): 479-672, 29 pl.