アカエイに寄生のTrebiidae(サメジラミ科)の一種、Trebius akajeii 寄生性カイアシ類
2022年1月に岡山県沿岸のアカエイに寄生していたというカイアシ類を生きた状態でいただきました(Fig. 1)。筆者はこれを標本化し、Trebius akajeii Shiino, 1954と同定しました。同定方法については後述します。
Trebius属はTrebiidae(科)に属します。WoRMSによるとTrebius属は18種が報告されています。従来の分類では本科にKabatania属(K. ostorhynchiの一種のみ)も属していましたが、最近の形態解析でPandaridae(科)に移転し、Trebiidae(科)はTrebius属の1属のみです(Hutson & Boxshall 2016)。サメに寄生するので長澤(2018)は科および属の和名を「サメヤドリ」としています。外観はCaligidae(ウオジラミ科)とよく似ていますが、第3胸脚に違いがあります(Fig. 2)。
Trebius akajeiiはアカエイの体表に寄生します。長澤(2018)より和名は「アカエイヤドリ」です。宿主から因んでいます。体長は平均6.52 mm(6個体)、範囲5.97-6.92 mmでした。文献(Shiino 1954;Deets & Dojiri 1989;城戸ら 2016)では5.19-5.75 mmの範囲で、記載よりも大きいです。この体長差は、季節によるものか、地域差か、はたまた隠蔽種なのかは分かりません。日本のみから報告され、三重県尾鷲と三重県浜島です。アカエイの他、ホシエイからも見つかっています(城戸ら 2016)。
Deets & Dojiri(1989)は、以下の特徴で他の種と区別できると述べています。付属肢の位置はFig. 3に示します。各部位の名称は過去の記事No. 38より。なお、写真の標本は乳酸で透明化してあります。
- ・尾肢の長さ/幅の比が2.4(後述)
- ・第2触角の爪の基部に目立つ膨らみがある(Fig. 4)
- ・後口突起基部の刺毛の長さが末端節(突起)の半分まである(Fig. 5)
- ・顎脚の基部に2つ突起がある(Fig. 6)
- ・第1胸脚の第3棘の先端が尖らない(Fig. 7)(後述)
Deets & Dojiri(1989)では、尾肢の長さと幅の比(長/幅)は2.4とあります。Shiino(1954)には比の記述はありませんでしたが、尾肢を詳細に記載した図を計測すると2.5でした。一方で、今回のは平均2.1(8個体)、2.0-2.3の範囲で記載とは異なります。体長の差も含め、海水温や栄養状態などの環境による変動があるのだと思います。Deets & Dojiri(1989)では、T. akajeiiは第1胸脚の第3棘の先端が尖らないとありますが、今回のは判断が難しいです(Fig. 7)。Deets & Dojiri(1989)において、尖ると表記があるTrebius heterodontiよりかは鋭くないです。
Shiino(1954)は胸脚の羽状棘と装飾のない棘(以降、「棘」)の数から、他種と区別しています。T. akajeiiは以下にあげるものが特徴とのことです。これらは、今回のと一致していました。
- ・第1胸脚の外肢第2節の棘と羽状棘の数が各3本と4本(Fig. 7)
- ・第2胸脚の内肢第3節の羽状棘が6本
- ・第2胸脚の外肢第3節の棘が2本
- ・第3胸脚の内肢第3節の羽状棘が4本(Fig. 2)
生殖節の左右後端には3つの棘状突起がありました(Fig. 8)。これは記載にもあります(Shiino 1954;Deets & Dojiri 1989)。長澤(2018)はT. akajeiiの特徴としてあげられています。生殖節側面には痕跡的な第5胸脚がありました。1本と3本の刺毛が離れた位置にあります。それぞれ外肢と内肢に由来すると思います。
20個体のT. akajeiiのほとんどに単生類が寄生していました(Fig. 9)。寄生部位は、頭胸部の背面、生殖節、腹部、卵嚢上です。過剰に寄生されていた個体もいました(Fig. 10)。その数は未成体を含め17個体で、卵は150個を超えます。単生類は扁形動物の一種で、扁形動物にはプラナリアやコウガイビル、サナダムシなどが分類されます。
T. akajeiiに寄生していた単生類は、体長1.24 mm、咽頭の長さ110 μm、幅74 μm、卵巣と精巣の幅比(卵巣/精巣)0.72(Fig. 11)、卵フィラメントの長さ250 μm(Fig. 12)から、Udonella australis Carvajal & Sepulveda, 2002と同定できました(Freeman & Ogawa 2010;Carvajal & Sepúlveda 2002)。Udonella属の多くは、ウオジラミのような形態を持つカイアシ類、いわゆるCaligiformの種、Caligidae(ウオジラミ科)Alebion属、Caligus属、Lepeophtheirus属、Trebiidae(科)Trebius属などに寄生します(Causey 1961;Freeman & Ogawa 2010;Carvajal & Sepúlveda 2002)。宿主特異性は低く、Caligiformの多種に寄生するようです(Causey 1961)。ちなみに、単生類の一種、Udonella caligorumの学名はウオジラミ、Caligusから因んでいます。
単生類U. australisの卵の拡大には、卵に長さ250 μmのフィラメントが付いているのが分かる。
日本からはTrebiidae(科)は1属3種が報告されています(筆者調べ)。この3種を以下にまとめます。
- ・Trebius akajeii Shiino, 1954
和名「アカエイヤドリ」(長澤 2018)。アカエイの体表に寄生。体長は雌5.19-5.75 mm、雄2.32 mm(Shiino 1954;Deets & Dojiri 1989)。腹節は3節。他の2種は2節なので容易に見分けられる。ほか、胸脚の棘の数が異なる(Shiino 1954)。日本のみに出現。三重県から報告がある。
- ・Trebius longicaudatus Shiino, 1954
和名「コロザメヤドリ」(長澤 2018)。コロザメの口腔と体表に寄生。体長は雌11.38-12.36mm(Shiino 1954;Nagasawa etal. 1998)。雄は記録されていない。腹部は前体部(頭胸部から第4胸脚がある節まで)の1.9-2.6倍と長い。日本のみに出現。千葉県銚子沖から報告がある。
- ・Trebius shiinoi Nagasawa, Tanaka & Benz, 1998
和名「サメノシキュウヤドリ」(長澤 2019)。カスザメの子宮内、カスザメとコロザメの胎仔の体表に寄生。体長は雌9.32-42.50 mm、雄2.70-3.87 mm(Shiino 1963;Nagasawa etal. 1998;Izawa 2013)。腹部がとても長く、前体部の2.1-8.5倍ある。T. longicaudatusとよく似るが、①第2触角の第2節の突起の形状、②叉状突起の形状、③後口突起(第1小顎)の突起が二叉にならず一方が瘤状になることで見分けられる(Nagasawa etal. 1998)。日本のみに出現。和歌山県、静岡県から報告がある。
文 献
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