側線鱗に寄生するColobomatus属カイアシ類
カイアシ類とは、主に海水または淡水中に生息する微小な甲殻類のことだが、一部には他の生物に寄生する種もいる。その寄生する場所は、ゴカイ類の体表や魚類の体表、二枚貝の鰓、海藻の
シロギスの側線鱗に寄生するColobomatus westi
魚類、シロギスSillago japonicaからは、
側線とは、魚類に備われている感覚器官のことで、列をつくって並んでいるため線状に見えることからそう呼ばれる。ひとつひとつの感覚器官には
今回は3匹のシロギス、体長20.7cm、20.4cm、20.4cmから、それぞれ0個体、3個体、5個体のC. westiを確認できた。ほとんどのシロギスにC. westiが寄生していると思われる。側線管内は粘液が分泌されており、その粘液をC. westiは
今回は側線鱗から見つけたが、他のColobomatus属の種は、頭部感覚器官などにも寄生する。採集方法に、「Double-netting」というものがある(Mandinabeitia and Nagasawa 2013)。興味があれば、参照されたい。
Philichthyidae科の概要
Colobomatus属はPhilichthyidae科に属する。Philichthyidae科は日本で6属18種(長澤ら 2016)、世界で9属72種が報告されている(WoRMS)。科レベルとしては比較的小さなグループである。Philichthyidae科の全てが寄生性で、海産硬骨魚類に寄生する。ただし、Colobomatus lamnae Hesse, 1873の1種だけは
Colobomatus属の分類
Colobomatus属は、頭部に1対の
- ・Colobomatus absens Madinabeitia, Tang and Nagasawa, 2013(リュウキュウカクレムシ)
- タカサゴの頭部感覚器官
- ・Colobomatus acanthurid Madinabeitia, Tang and Nagasawa, 2013(クビヅマリカクレムシ)
- モンツハギの頭部感覚器官
- ・Colobomatus collettei Cressey, 1977(ナガクビカクレムシ)
- ホシザヨリの頭部感覚器官
- ・Colobomatus exilis Izawa, 1974(ホソミカクレムシ)
- アカイサキの頭部感覚器官
- ・Colobomatus fusiformis Izawa, 1974(イザワカクレムシ)
- オニハタタテダイの頭部感覚器官
- ・Colobomatus gymnocranii Madinabeitia, Tang and Nagasawa, 2013(バンザイカクレムシ)
- メイチダイの頭部感覚器官
- ・Colobomatus mylionus Fukui, 1965(クロダイカクレムシ)
- クロダイ、キチヌ、ミナミクロダイの頭部感覚器官
- ・Colobomatus pteroisi Madinabeitia, Tang and Nagasawa, 2013(ミナミカクレムシ)
- ハナミノカサゴの頭部感覚器官
- ・Colobomatus pupa Izawa, 1974(ヒメジカクレムシ)
- オキナヒメジ、ホウライヒメジ、オジサンの頭部感覚器官と側線鱗
- ・Colobomatus westi Hayward, 1996(トウヨウカクレムシ)
- シロギスの側線鱗
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追記(2021.9.28)
- ・Colobomatus itoui Uyeno and Nagasawa, 2021(カクレンボウ)
- ゴマサバの頭部感覚器官
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Colobomatus属の体制
Colobomatus属の体制をFig. 4に示す。メスは形態を大きく変えて、多くの場合、体節が消失する。カイアシ類だとは思わせない形態だが、退化的な
Colobomatus属の生態学
寄生生物の多くは、
Colobomatus属の生活史は、Izawa(1975)によって、宿主に寄生するまでの一部が分かっている。雌成体はカイアシ類だとは思えない形態だが、ノープリウス幼生とコペポディット幼体はオスと共通して、カイアシ類らしい形態である。(参考記事「ヒジキムシ(ペンネラPennella sp.)の生活史」)驚くことに、卵から孵化後、宿主に寄生するまでの間は、何も摂餌しないというのだ。卵には栄養となる卵黄がとても豊富で、成体になるまでの栄養を卵黄から得ているという。室内飼育でも、水温を管理するだけでコペポディット幼体に移行する。その日数は5日で、一般的なカイアシ類の種の1ヶ月程度(Uye 1988)と比較すると極端に短縮されている。ノープリウス幼生は5期、コペポディット幼体は1期で構成され、その後の脱皮で成体になる。通常、ノープリウス幼生6期、コペポディット幼体5期なので、成長ステージも短縮されている。卵黄が豊富のせいか、ノープリウス幼生は丸々と肥えている。
近縁種Sarcotaces属の寄生実験
Colobomatus属の近縁種のSarcotaces属の一種、Sarcotaces pacificusの寄生実験(Izawa 1973)を紹介する。
その前に、まず、ユニークな名前を知っていただきたい。S. pacificusの和名は「コブトリジイサン(こぶとり爺さん)」と呼ばれる(長澤ら 2016)。この種はカエルアンコウAntennarius tridensに寄生するが、宿主体内でコブを形成し、コブの中に生息するという面白い種だ。そのコブが、おとぎ話の「こぶとり爺さん」を連想させることから、そう呼ばれる。
それでは、話を戻そう。Izawa(1973)は、8 cmの宿主カエルアンコウを入れた300 mLの水槽に、第1コペポディット幼体のS. pacificus、100個体を投入した。20分後にカエルアンコウを取り除き、水槽に残ったS. pacificusを数えると、10個体だったという。90%の個体が、カエルアンコウに寄生したということになる。第1コペポディット幼体は、ノープリウス幼生と比べると、泳ぎが活発で、寄生をするステージであることが示唆される。近縁種のColobomatus属でも同様な結果になることだろう。
文 献
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