カイアシ類の新分類(2020年) 顎脚綱は解体
*1 DOI: 10.1038/s41598-017-06656-4
*2 DOI: 10.1016/j.ympev.2019.106574
*3 DOI: 10.1101/650507
- ・胸部は6つの体節に分かれる
- ・
大顎 のpalpがよく発達している
- ・
顎脚 (胸部にある摂食 に関わる付属肢)がよく発達している
- ・
小顎 はろ過摂食 の餌粒子のろ過として働く
- ・胸部に
顎基 はない
大顎とは歯として働く器官であり、歯は底節となる顎基にある。顎基は摂食に関わる付属肢の基部であり、大きい形状をしている。大顎には、その顎基に餌粒子を掻き集める役割をもつpalpが備わっている(Fig. 1)。
顎脚綱には、以下の7亜綱が分類されていた。
- ・
鞘甲亜綱 (フジツボなど)
- ・ヒメヤドリエビ亜綱
- ・ヒゲエビ亜綱
- ・カイアシ亜綱
- ・
貝形虫亜綱 (カイミジンコ、ウミホタル)
- ・
鰓尾亜綱 (チョウ類、別名ウオジラミ類)
- ・
舌形亜綱
しかしながら、1990年代になると、DNA配列などの分子情報を用いた分子系統解析により、顎脚類は複数の系統が混合されていることが判明した(Abele etal. 1992)。いわゆる多系統である。こうした顎脚類の単系統性の否定は、以降の全ての分子系統解析で同様である(例えば、Regier etal. 2010、Oakley etal. 2013、Eyun 2017、Lozano-Fernandez 2019)。したがって、顎脚綱は解体された。
Regier etal.(2010)の分子系統により、甲殻類は、Multicrustacea(
カイアシ類と鞘甲類はHexanauplia(綱)へ分類され(Oaklay 2013)、ヒメヤドリエビ類は鞘甲類の姉妹系統性が高いことが分かり、Hexanaupliaに加わった(Kohdami 2017)。Hexanaupliaの和名だが、岡山県野生動植物調査検討会委員 et al. (2019)にて「六齢ノープリウス幼生綱」が提案されたが、大塚・田中(2020)より「
カイアシ類は、上位分類では節足動物門-甲殻亜門-多甲殻上綱-六幼生綱-カイアシ亜綱に分類される。多甲殻上綱では、エビやカニなどの軟甲綱と六幼生綱が姉妹系統であり、六幼生綱には他に鞘甲類とヒメヤドリエビ類が分類されている。カイアシ亜綱は、大きく分けて2つの
- ・ポエキロストム目の分類群はキクロプス目下へ移転(Khodami etal. 2017)
- ・ハルパクチクス目の一部の分類群がカヌエラ目(大塚・田中(2020)より新称)へ新設(Khodami etal. 2017)
- ・タウマトプシルス目の分類群はキクロプス目下へ移転(Khodami etal. 2019)
- ・キクロプス目は4つの亜目に細分化(Khodami etal. 2019)
分子系統学の発展は、2010年あたりから活発になってきたと思う。次世代シーケンサーの登場がきっかけであろう。それゆえ、分類の見直しは頻繁に行われるようになり、現在に至る。DNA配列やアミノ酸配列などの分子情報を用いた系統解析は、画期的なものであるが、生物種によっては種間で配列の変異具合(進化速度)にバラツキがあり、正しい系統を導き出せないことがしばしばある。カイアシ類の上位分類、六幼生綱か共甲綱かの問題がそれである。その際に、生活史や形態など、分子情報に頼らない系統解析も重要視される。今後、分子情報と非分子情報の扱い方が課題であろう。
文 献
Abele L G, Spears T, Kim W, Applegate M (1992) Plylogeny of selected Maxillopodan and other crustacean taxa based on 18S ribosomal nucleotide sequences: a preliminary analysis. Acta Zoologica (Stockholm) 73 (5): 373-382.
Eyun S (2017) Phylogenomic analysis of Copepoda (Arthropoda, Crustacea) reveals unexpected similarities with earlier proposed morphological phylogenies. BMC Evol. Biol. 17: 23.
Dahl E (1956) Some crustacean relationships. In: Bertil Hanström: Zoological Papers in Honour of His Sixty-fifth Birthday, 20th, 1956. pp 138-147. Lund Zoological Institute. Lund, Sweden. 311 pp.
Khodami S, McArthur J V, Blanco-Bercial L, Arbizu P M (2017) Molecular phylogeny and revision of copepod orders (Crustacea: Copepoda). Sci. Rep. 7: 9164.
Khodami S, Mercado-Salas N F, Tang D, Arbizu P M (2019) Molecular evidence for the retention of the Thaumatopsyllidae in the order Cyclopoida (Copepoda) and establishment of four suborders and two families within the Cyclopoida. Mol. Phylogenetic. Evol. 138: 43-52.
Oakley T H, Wolfe J M, Lindgren A R, Zaharoff A K (2013) Phylotranscriptomics to bring the understudied into the fold: Monophyletic Ostracoda, fossil placement, and Pancrustacean phylogeny. Mol. Biol. Evol. 30 (1): 215-233.
大塚 攻・田中隼人 (2020) 顎脚類(甲殻類)の分類と系統に関する研究の最近の動向. タクサ日本動物分類学会誌 48: 49-62.
岡山県野生動植物調査検討会委員 et al. (2019) 岡山県生物目録2019. 岡山. 423 pp.
Regier J C, Shultz J W, Zwick A, Hussey A, Ball B, Wetzer R, Martin J W, Cunningham C W (2010) Arhropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences. Nature 463: 1079-1084.