サンマヒジキムシ (Pennella sp.) にカイアシ類の要素はあるのか
サンマヒジキムシとはカイアシ類のうちシフォノストム目ヒジキムシ科(Pennellidae)に属する。寄生性である。名前の通り、サンマに寄生する種で、サンマの腹部に体サイズの半分が埋もれた状態で寄生する。体は黒っぽい濃い紫色で、ヒジキのように見えることから、そう名付けられている。サンマヒジキムシは私たちの生活では無縁と思うかもしれないが、そうでもなく、スーパーで売られているサンマにも寄生しているのが、ときどき見うけられる。
さて、一般的なカイアシ類と見比べていただきたい(Fig. 1)。どこにも共通点はないと思う。体サイズも全く違う。一般的なカイアシ類はせいぜい1 mm程度だが、サンマヒジキムシは7 cmある。クジラ類に寄生する、サンマヒジキムシと同じ仲間のPennella balaenoptera Koren & Danielssen, 1877は32 cmに達することもある。カイアシ類と言われても似ても似つかない姿である。このどこにカイアシ類と呼べる要素があるのか。サンマヒジキムシがはじめて記載された当初も、まさかカイアシ類の一種だとは思われず、サンゴの仲間のウミエラの仲間に誤って分類されていた(Wilson 1917)。そのため、学名のPennellaという、ウミエラPennatulaを連想させるようなものに命名されている。
実は、サンマヒジキムシの微細な構造にカイアシ類と相同性がある器官を持っている。電子顕微鏡の写真を見ていただきたい。Fig. 2に写っているのは、カイアシ類シフォノストム目で見られる鉤爪状の第2触角と第1触角である。Fig. 3はカイアシ類全般で見られる胸脚である。ここまでで、サンマヒジキムシはカイアシ類であったという安心感を覚えるかもしれない。形態的にはこの点でカイアシ類と呼べる。発生では、明らかにカイアシ類らしい形態を示している。例えばノープリウス幼生。これは一目でカイアシ類と分かる姿である(Arroyo etal 2002)。そしてコペポディット幼体(成体になるまえの成長段階)。これはカイアシ類シフォノストム目に特有の形態である(Wilson 1917)。
サンマヒジキムシはカイアシ類とは似ても似つかない姿ではあるが、よく見ていくとカイアシ類であることを証明するものがあったということが分かったと思う。今回はサンマヒジキムシについてだが、他の寄生性のカイアシ類でも同様なことが言える。言えるからカイアシ類に分類されるわけではあるが…。
サンマヒジキムシの形態はまるでカイアシ類ではないが、成長段階ごとでカイアシ類とよべる形質があったことに感心をもてたと思う。そこで、サンマヒジキムシはどのように成長をしていくのか。どういう生活史を持っているか。それについては後ほど取り上げたい。
文 献
Arroyo NL, Abaunza P, Preciado I, Preciado AP (2002) The First Naupliar Stage of Pennella balaenopterae Koren and Danielssen, 1877 (Copepoda: Siphonostomatoida, Pennellidae). Sarsia North Atlantic Mar. Sci. 87: 333-337.
Hogans WE (2017) Review of Pennella Oken, 1816 (Copepoda: Pennellidae) with a description of Pennella benzi sp. nov., a parasite of Escolar, Lepidocybium flavobrunneum (Pisces) in the northwest Atlantic Ocean. Zootaxa 4244: 1-38.
Wilson CB (1917) North American parasitic copepods belonging to the family Lernaeidae with a revision of the entire family. Proc. U.S. Natl. Mus. 53: 1-150.