2021年3月8日
No. 21

NOTE

Pennella属カイアシ類の分類は不可能

カイアシ類は主に水柱を浮遊する浮遊生物、プランクトンであるが、なかには他の生物に寄生する寄生性のカイアシ類も多く報告されている。サンマに寄生する主なカイアシ類として知られるサンマヒジキムシ(Pennella sp.)もその一つである。(関連記事「サンマヒジキムシ (Pennella sp.) にカイアシ類の要素はあるのか」)Kabata(1992)によると、寄生性カイアシ類の種数は1600-1800種おり、そのうち75%がシフォノストム目に分類される。サンマヒジキムシを含めたヒジキムシ(Pennella属)も本目に分類されている。

Pennella属はWoRMSでは44種が報告されている。ただし、そのほとんどは再調査が必要とされており、実際に種として妥当としているのは6種のみである(Hogans 2017)。Pennella属の代表種として2種をあげたい。Hogans(2017)に記されている体長と宿主とともに以下に紹介する。


  • Pennella balaenoptera Koren & Danielssen, 1877
    • 体長175-320 mm。ミンククジラ(Balaenoptera acutorostrata)、ナガスクジラ(Balaenoptera physalus)、イワシクジラ(Balaenoptera borealis)、ハナゴンドウ(Grampus griseus)、ネズミイルカ(Phocaena phocaena)、キタゾウアザラシ(Mirounga angustriostris)、スジイルカ(Stenella coeruleoalba)、ハンドイルカ(Turisops truncatus)。
  • Pennella filosa (Linnaeus, 1758)
    • 体長165-205 mm。シイラ(Coryphaena hippurus)、バショウカジキ(Istiophorus platypterus)、ニシクロカジキ(Makaira nigricans)、マンボウ(Mola mola)、カンパチ(Seriola dumerilini)、マカジキ(Tetrapterus audax)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ビンナガ(Thunnus alalonga)、メカジキ(Xiphias gladius)。

P. balaenopteraは海棲哺乳類に寄生し、体長はP. filosaよりも大型だ。形態差は明確である。しかしながら、最近の分子系統解析によりP. balaenopteraP. filosaは同種であることが示された(Fraija-Fernández etal. 2018)。mtCOI(ミトコンドリアのDNAにある呼吸に関わる遺伝子)の配列相違率(p-distance)が4.1%だったという。Bucklin etal.(2003)によると、9-24%の相違がないと同種である。実は、両種は同所性がある。P. filosaの分布はP. balaenopteraが発生する海域に限られている。これは同種であることに起因しているのかもしてない。

Pennella属の形態の変動性は多く報告されている。例えば、Hogans(1987)によると角状突起は寄生部位が脂肪質で柔らかいと伸長し、筋肉質で硬いと短縮する(形態については関連記事「カイアシ類の一種、ヒジキムシ (Pennella sp.)」を参照)。Benz & Hogans(1993)はP. filosaで腹側の角状突起が分岐した個体を見つけたことを報告している。そうなると、角状突起が分岐しているか否かで分類しているP. benziと形態差がなくなることになるが。また、第1触角の節は大型になると隣り合う節と融合することがある(Hogans 2017)。Pennella属は、自身の体長の半分以下を宿主へ包埋するが、角状突起が2つの個体は体長の45%、3つの個体は32%を包埋していたことを確認している(Abaunza etal. 2001)。あまり包埋ができていないと脱離してしまうため、角状突起の本数を増やしてグリップ力をあげているらしい。包埋具合で角状突起の本数を調節しているのかもしれない。

以上を考えると、P. balaenopteraP. filosaの形態差は形態変動性の範疇だったのかもしれない。となると、P. filosaと同所的(Hogans etal. 1985)に発生するP. instractaも同種なのだろうか。形態では、体長は122-163 mm、P. filosaとは160 mmあたりで違う。また、P. filosaには腹部に角状突起があり(P. balaenopteraも同様)、腹部に角状突起がないP. instractaと区別できる(Hogans etal. 1985)。また、第1触角はP. filosaは3節、P. instractaは5節で構成される(Hogans 1986)。しかし、これらは形態変動性の範疇とも捉えることができる。今後の報告に期待である。

さて、冒頭で紹介した、サンマに寄生するPennella属こと、サンマヒジキムシ。記録上では1981年に初めてサンマヒジキムシが確認された(長澤ら 1984)。その当時の寄生率は0.7%で、翌年に8.1%、1983年に34.6%、たった3年で50倍の増加が見られた(Nagasawa 1984)。ただし、経年で見ると度々、寄生率が0%となることがあるようだ(Nagasawa etal. 1988)。北米から来たという考えがあるが(長澤ら 1984)、サンマヒジキムシの起源については不明である。

しかしながら、サンマヒジキムシの学名は「Pennella sp.」。sp.(○○の一種という意味)とあるように種を特定していない。実は40年がたった今も未記載種なのである。Pennella属は形態の変動性があるために、種を特定するための形質が見つかっていないのだ。今回のP. balaenopteraP. filosaは同一種だった(学名の先取権により2種ともP. filosa)、形態の変動性を考慮し、もしかしたらサンマヒジキムシもP. filosa、同一種なのかもしれない。

文   献

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