2021年11月23日
No. 34

NOTE

記載された44種のヒジキムシ、実際は数種のみか 寄生性カイアシ類Pennella属の新たな分類

ヒジキムシは海産魚類に寄生するカイアシ類の一種です。主に鯨類、マグロ、カジキ、マンボウ、サンマが宿主となります。頭胸部を宿主内部に穿孔し、体の半分を宿主体外に露出します。サンマに寄生するヒジキムシ(Fig. 1)はサンマヒジキムシと呼ばれますが、「Pennella sp.」とヒジキムシの一種と表記し、種を特定していません。ヒジキムシの分類について新しい知見がSuyamaら(2021)より得られましたので、紹介したいと思います。

サンマに寄生するサンマヒジキムシ(Pennella sp.)
Fig. 1 サンマに寄生するサンマヒジキムシ(Pennella sp.)
矢印はサンマヒジキムシを指す

Suyamaら(2021)は12種の宿主から採取した52個体の分子系統解析をしたところ、ヒジキムシは3つのグループ(クレード)で構成していると見出しました。ヒジキムシの分子系統解析は、過去にもおこなわれていますが(Fraija-Frenández et.al. 2018)、ヒジキムシを網羅した解析は今回がはじめてです。

3つのグループのうち1つは明確な形態差があり、頭胸部先端に大きな触角突起(antennary processes)が2対または3対あります(Fig. 2)。このグループの宿主はサンマ、ツボダイ、カンパチ、マンボウで、サンマヒジキムシも含みます。他2つのグループには触角突起はなく、そのほかの形態差はなかったとのことです。マンボウは全てのグループで宿主となるので、触角突起が宿主によって出現する環境変異ではなさそうです(宿主によって形態が変わることについては記事No. 21「Pennella属カイアシ類の分類は不可能」を参照)。この2つのグループ間のmtCOI遺伝的距離は%K2P(Kimura 2-parameter;塩基ごとの転移と転換が起きる確率を考慮した遺伝的距離の推定)で4%と、とても近縁です。さらにはサンマヒジキムシを含むグループとでは最小1%しかありません。この数値は、他の分子系統解析の例では同種となることがしばしばです(Gutiérrez-Aguirre et.al. 2014; Baek et.al. 2016; Rossel & MartínezArbizu 2019)。概ね、10%を超えると異種です。ただし、0.2%でも異種となることがあるため(Baek et.al. 2016)、3つのグループが異種なのかは断定できません。

サンマヒジキムシ(Pennella sp.)の頭胸部先端にある触角突起(antennary processes)
Fig. 2 サンマヒジキムシ(Pennella sp.)の頭胸部先端にある触角突起(antennary processes)
矢印は触角突起を指す

唯一の形態差、触角突起で種を定義するなら、サンマヒジキムシを含むグループは、学名の先取権でPennella sagitta (Linnaeus, 1758)、他2つのグループはPennella filosa (Linnaeus, 1758)ということになるのでしょう。

文   献

Baek SY, Jang KH, Choi EH, Ryu SH, Kim SK, Lee JH, Lim YJ, Lee J, Jun J, Kwak M, Lee Y-S, Hwang J-S, VenmathiMaran BA, Chang CY, Kim I-H, Hwang UW (2016) DNA barcording of metazoan zooplankton copepods from South Korea. PLOS ONE, 11 (7): e0157307.

Fraija-Frenández N, Hernández-Hortelano A, huir-Baraja AE, Ranga JA, Aznar FJ (2018) Taxonomic status and epidemiology of the mesoparasitic copepod Pennella baraenoptera in cetaceans from the western Mediterranean. Dis. Aquat. Org. 128(3): 249-258.

Gutiérrez-Aguirre MA, Cervantes-Martínez A, Elías-Gutiérrez M (2014) An example of how barcodes can clarify cryptic species: The case of the Calanoid Copepod Mastigodiaptomus albuquerquensis (Herrick). PLOS ONE, 9 (1): e85019.

Rossel S, MartínezArbizu P (2019) Revealing higher than expected diversity of Harpacticoida (Crustacea: Copepoda) in the North Sea using MALDI-TOF MS and molecular barcoding. Sci. Rep., 9: 9182.

Suyama S, Yanagimoto T, Nakai K, Tamura T, Shiozaki K, Ohshimo S, Chow S (2021) A taxonomic revision of Pennella Oken, 1815 based on morphology and genetics (Copepoda: Siphonostomatoida: Pennellidae). J. Crust. Biol., 41 (3): 1-12.