モンストリラ目カイアシ類 属までの検索
夜に海岸でライトトラップのもと、プランクトン採集をすると、その時間帯にしか採れないカイアシ類を採ることができる(日中だと採れないというわけではないが)。口器はなく、消化管も見当たらない。後体部はカイアシ類を思わせるが、前体部はカイアシ類のように見えない。モンストリラというカイアシ類である。モンストリラはモンストリラ目に分類される。多毛類や腹足類などにノープリウス幼生時期に内部寄生し、成体に成長すると宿主の体表を破って出てくる。あたかも生物から全く別のものが出芽するように出てくる様だ。モンスターから由来する名だが、まさに名の通りだ。(参考記事:「カイアシ類の体制 カラヌス目カイアシ類の成長と体節」)
筆者自身、奇怪な寄生っぷりからモンストリラには興味があり、モンストリラの同定はできないものかと、今回、属までの検索方法を模索し作成することにした。もし、モンストリラにお目にかかることがあれば、参考にしていただければ幸いである。
WoRMSによるとMonstrilloida(モンストリラ目)は世界1科7属156種が報告されている。以下が属リストとなる。
- ・ Australomonstrillopsis Suarez-Morales & McKinnon, 2014
- ・ Caromiobenella Jeon, W Lee & Soh, 2018
- ・ Cymbasoma Thompson I.C., 1888
- ・ Maemonstrilla Grygier & Ohtsuka, 2008
- ・ Monstrilla Dana, 1849
- ・ Monstrillopsis Sars G.O., 1921
- ・ Spinomonstrilla Suarez-Morales, 2019
筆者調べで、このうち日本に出現するのは4属15種であり、以下の通り。ただし、筆者私信では、これ以上の種が出現する。
- ・ Caromiobenella serricornis G. O. Sars, 1921
- ・ Caromiobenella hamatapex (Gryiger & Ohsuka, 1995)
- ・ Caromiobenella helgolandica (Claus, 1863)
- ・ Cymbasoma agoensis Sekiguchi, 1982
- ・ Cymbasoma bullatum (Scott, 1909)
- ・ Cymbasoma longispinosum (Bourne, 1890)
- ・ Cymbasoma morii Sekiguchi, 1982
- ・ Cymbasoma rigidum Thompson, 1888
- ・ Maemonstrilla hyottoko Gryiger & Ohtsuka 2008
- ・ Maemonstrilla okame Gryiger & Ohtsuka 2008
- ・ Maemonstrilla polka Gryiger & Ohtsuka 2008
- ・ Maemonstrilla simplex Gryiger & Ohtsuka 2008
- ・ Maemonstrilla spinicoxa Gryiger & Ohtsuka 2008
- ・ Monstrilla grandis Giesbrecht, 1891
- ・ Monstrilla inserta Scott A., 1909
以下に属までの検索を記す。Boxshall & Halsey(2004)をもとに、その後に発見された属を、その記載論文(Grygier & Ohtsuka 2008;Suárez-Morales & Mckinnon 2014;Jeon etal. 2018;Suárez-Morales 2019)を参考に、属の同定に役立つ形質を付け加えた。Fig. 1に検索に必要となる形質の位置を示した。
- 1.生殖節の後の節数が雌で1節、雄で2節(尾肢は数えない)…Cymbasoma
- ─それ以上の節数…2
- 2.胸部背側に対の棘がある…Spinomonstrilla
- ─胸部背側に対の棘はない…3
- 3.雌の抱卵毛(ovigerous spine)は胸部側前方へ向かって伸びており胸脚で抱えるように自身とほぼ等大の卵塊を抱卵し、口部錐体(oral coneまたはoral papilla)の位置は頭部長1/3よりも前方にあり、第1~4胸脚の外肢第1節内側に刺毛がない…Maemonstrilla
- ─雌の抱卵毛は後方へ伸びており、胸脚で抱えることなく抱卵する…4
- 4.雌雄ともに眼がよく発達し目立ち、口部錐体の位置は頭部長1/4よりも前方にあり、雄の第1触角の末端は一部分がくびれており、末端節の一部分が膨れ、末端節先端は尖るか剛毛がある…5
- ─雌雄ともに眼はあまり発達せず、口部錐体の位置は頭部長1/4よりも後方にあり、雄の第1触角の末端はくびれたり、膨れたり、先端が尖ることはなく、第1~4胸脚の外肢第1節内側に刺毛がある…6
- 5.口部錐体付近に構造はなく、第1~4胸脚の外肢第1節内側に刺毛がある…Monstrillopsis
- ─口部錐体付近に折りたたまれた嚢状突起が複数あり、第1~4胸脚の外肢第1節内側に刺毛がない…Australomonstrillopsis
- 6.雌雄ともに頭部背側後方に縦列4つの小孔が対にあり、雄の第1触角先端に5列の微細毛がある…Caromiobenella
- ─雌雄ともに頭部背側後方に対の縦列4小孔はなく、雄の第1触角先端に5列の微細毛がない…Monstrilla
文 献
Boxshall G A, Halsey S A (2004) An Introduction to Copepod Diversity. Ray Society. London. 2000 pp.
Grygier M J, Ohtsuka S (2008) A new genus of monstrilloid copepods (Crustacea) with anteriorly pointing ovigerous spines and related adaptations for subthoracic brooding. Zool. J. Linn. Soc. 152: 459-506.
Jeon D, Lee W, Soh H Y (2018) A new genus and two new species of monstrilloid copepods (Copepoda: Monstrillidae): integrating molecular phylogenetic, and ecological evidence. J. Crust. Biol. 38 (1): 45-65.
Suárez-Morales E, Mckinnon A D (2014) The Australian Monstrilloida (Crustacea: Copepoda) I. Monstrillopsis Sars, Maemonstrilla Grygier & Ohtsuka, and Australomonstrillopsis gen. nov. Zootaxa 3779 (3): 301-340.
Suárez-Morales E (2019) A new genus of the Monstrilloida (Copepoda) with large rostral process and metasomal spines, and redescription of Monstrilla spinosa Park, 1967. Crustaceana 92 (9): 1099-1112.