2022年6月23日
No. 45

NOTE

アマモ場からスイツキミジンコの一種 葉上性カイアシ類Porcellidium kiiroum

筆者は千葉県富津のアマモ場でプランクトン採集をしたところ、スイツキミジンコ科(Porcellidiidae)の一種を得ました(Fig. 1)。この種はPorcellidium kiiroumの雌♀と同定しました。スイツキミジンコ科の図譜は過去に記事にしています(記事 No. 19)。学名にある通り、体色は黄色を呈しています。体長は0.98 mmでした(Fig. 2にある額角を除く頭部先端から尾肢の後端までの長さ)。文献では0.81 mmとあるので(Harris & Iwasaki 1996a)、若干大きいようです。

千葉県富津で得られたスイツキミジンコの一種Porcellidium kiiroum
Fig. 1 千葉県富津で得られたスイツキミジンコの一種Porcellidium kiiroum

Fig. 2に乳酸で透明化した個体の写真を部位名称とともに載せます。スイツキミジンコ科で特徴となるのは第5胸脚の形状です。一見して体節のようですが、実は付属肢であり胸脚です。無数の卵を生殖複合節あたりで抱卵しますが、第5胸脚は卵の保持の役割があるのでしょうか。生殖複合節と一部が重なり、噛み合うような形状になっています。交尾ガードという未成熟の雌に雄が把握する行動をしますが、雄は第1触角を使って、雌の第5胸脚を掴むようです。

Porcellidium kiiroumの体制
Fig. 2 Porcellidium kiiroumの体制
個体は乳酸で透明化してある

スイツキミジンコ科の各属は尾肢の形状、尾肢末端刺毛の配置が決まっています(Harris 2014)。ただし雌の場合で、雄では第1触角の形態です。Porcellidium属の場合、尾肢は台形でT2とT3が接近しているのが特徴です(Fig. 3)。

Porcellidium kiiroumの尾肢先端
Fig. 3 Porcellidium kiiroumの尾肢先端
T1は尾肢の外側、T4は内側にある

P. kiiroumP. ofunatenseとよく似ています。簡単な見分けは、尾肢先端の内側が面取りされていないこと、第5胸脚に第4刺毛があること(Fig. 4)の2つです。

Porcellidium kiiroumの第5胸脚
Fig. 4 Porcellidium kiiroumの第5胸脚
数字は刺毛を指す

P. kiiroumの生息場所はワカメ(Undaria pinnatifida)、ニクムカデ(Grateloupia carnosa)、アカバ(Neodilsea yendoana)であり(Harris & Iwasaki 1996b)、アマモには棲んでいないようです。アマモには他のスイツキミジンコ、Kushia zosteraphilaがよく棲んでいるとのことですが、今回は採れませんでした。学名は、zostera -phila「アマモを好む者」とある通り、アマモ(Zostera属)に棲んでいることで因んでいます。

文   献

Harris VA, Iwasaki N (1996a) Three new species of Porcellidium (Crustacea, Copepoda, Harpacticoida) from Iwate Prefecture, Japan. Bull. Nat. Sci. Mus., Ser. A, 22 (3): 133-152.

Harris V A, Iwasaki N (1996b) Two new genera belonging to the family Porcellidiidae (Crustacea, Copepoda, Harpacticoida) from Iwate Prefecture, Japan. Bul. Nat. Sci. Mus., Ser. A, 22 (4): 199-218.

Harris, VA (2014) Porcellidiidae of Australia (Harpacticoida, Copepoda). II. The importance of the male antennule in taxonomy. Rec. Australian Mus., 66(2):111-166.