寄生性カイアシ類Taeniacanthidae(科)の一種 本科の属までの検索
ゴンズイの体表から採れたというカイアシ類の標本をいただきました。頭胸部は大きく、触角の特徴からBomolochiform(Bomolochidae(科)とTaeniacanthidae(科)を含めた形態が類似する分類群)の仲間であり、Dojiri & Cressey(1987)とTang & Izawa(2005)よりIrodes属の一種と同定しました。本属は第2胸脚基節の内側に刺毛があり、顎脚は単純で、先端に鉤爪がないことが特徴です。雌81個体、雄4個体でした。20個体のゴンズイを淡水浴して、脱離した個体とのことです。雌雄は顎脚の形状で見分けられます。雄の顎脚はよく発達し大きいです(Fig. 2)。
BomolochidaeとTaeniacanthidaeは形態がよく似ますが、顎脚が口器の側方にあればBomolochidae(科)(Fig. 3 Mxp)、口器の後方にあればTaeniacanthidae(科)(Fig. 4 Mxp)と見分けられます(Humes & Dojiri 1984)。日本に出現するTaeniacanthidae(科は、長澤・上野(2020)によるとAnchistrotos属、Biacanthus属、Cirracanthus属、Irodes属、Metataeniacanthus属、Nudisodalis属、Pseudotaeniacanthus属、Taeniacanthus属、Umazuracola属の9属です。Umazuracola属の外観はBomolochiformだと言い難いく、過去には全く別の分類Umazuracolidae(科)に分類されていましたが、分子および詳細な形態の系統解析でTaeniacanthidae(科)に属することが分かりました(Huys etal. 2012)。これらの属を含める、雌におけるホソエラジラミ科の属までの検索表をTang & Izawa(2005)をもとに作成しました。以下に記します。
顎脚(Mxp)が口器の側方にあることが分かる。A1, 第1触角; A2, 第2触角; Md, 大顎; Mx1, 第1小顎; Mx2, 第2小顎; Mxp, 顎脚; pap, 後触角突起
- 1. 体型は虫形で円筒状、後体部は1節に融合する…Umazuracola
- ─それ以外…2
- 2. 第2胸脚基節の内側に刺毛がある…3
- ─第2胸脚基節の内側に刺毛はない…11
- 3. 後触角突起はない…4
- ─後触角突起はある…6
- 4. 吻部に後方へ向いた突起がある…Taeniacanthodes
- ─それ以外…5
- 5. 吻部にY字の突起がある…Pseudotaeniacanthus
- ─それ以外…Phagus
- 6. 第2胸脚がある節は細長く、首のようになる…Scolecicara
- ─第2胸脚がある節は首のようにならない…7
- 7. 顎脚に鉤爪はない…Irodes
- ─顎脚に鉤爪がある…8
- 8. 第1触角の基部に鉤状の突起がある…Biacanthus
- ─第1触角の基部に突起はない…9
- 9. 吻部にひだが付いた盾形の構造がある…Taeniastrotos
- ─吻部に盾形の構造はない…10
- 10. 顎脚に末端以上の長さの2本の刺毛がある…Anchistrotos
- ─顎脚に長い2本の刺毛はない…Caudacanthus
- 11. 第1胸脚は扁平に肥大にならず、胸脚の刺毛は長さ半ばから細かな毛で覆われる…12
- ─第1胸脚は扁平に肥大し、胸脚の刺毛は羽状…13
- 12. 第2胸脚がある節は頭部と部分的にあるいは完全に融合し、顎脚はある…Clavisodalis
- ─第2胸脚がある節は頭部と融合せず、顎脚がない…Echinirus
- 13. 顎脚はやや痕跡的で3本の刺毛がある…Echinosocius
- ─顎脚はよく発達する、または、基部は発達的だが鉤爪はない…14
- 14. 頭胸部の側部が腹側へ折りたたむ…Metataeniacanthus
- ─頭胸部の側部が腹側へ折りたたまれない…15
- 15. 顎脚に鉤爪がない…Nidisodalis
- ─顎脚に鉤爪がある…16
- 16. 顎脚の鉤爪は基部へ向かって曲がる…Cirracanthus
- ─それ以外…Taeniacanthus
文 献
Dojiri M, Cressey RF (1987) Revision of the Taeniacanthidae (Copepoda: Poecilostomatoida) Parasitic on Fishes and Sea Urchins. Smithsonian Institution Press, Washington, D.C., Smithsonian Contributions to Zoology, No. 447, 250 pp.
Huys R, Fatih F, Ohtsuka S, Llewellyn-Hughes J (2012) Evolution of the bomolochiform superfamily comples (Copepoda: Cyclopoida): New insights from ssrDNA and morphology, and origin of umazuracoids from polychaete-infecting ancestors rejected. Int. J. Parasitol., 42: 71-92.
長澤和也, 上野大輔 (2020) 日本産魚類に寄生するホソエラジラミ科カイアシ類の目録(1922-2020年). 広島大学総合博物館研究報告, 12: 137-152.
Tang D, Izawa K (2005) Biacanthus pleuronichthydis (Yamaguti, 1939) gen. n., comb. n. (Copepoda: Taeniacanthidae), an ectoparasite of flatfishes from Japanese waters. Zootaxa, 1071: 47-60.