川の流れに流されない浮遊性カイアシ類のしくみ
河口に近い河川では、上流のほど塩分が低く、河口に近づくほど塩分が高くなります。種ごとに、この場所を決められた塩分のところで生息しています。以下にその代表種と、その種が生息する塩分域を示します(Fig. 1)。図中には沿岸性のCalanus sinicusも含めています。塩分が25‰を超えるとほぼ沿岸です。
もし、生息できる塩分域ではない塩分に移されると、浸透圧の問題により代謝が上手くおこなわれなくなり、死に至ります。なので、河川に生息する種は、河川の流れに任して海に流されてはいけないのです。つまり、決められた塩分域にとどまる仕組みがあるのです。上田(2005)は、その仕組のことを「定位機構」と呼んでいます。
では、どうやって、決められた塩分域に生息するのでしょうか。河川は常に海へ流れています。Fig. 1にあげた種は浮遊性です。遊泳力はないので、河川の流れに逆らって泳ぐことはできません。その答えを導き出す鍵となるには「潮汐」です。
地球のそばを月がまわっています。その月による引力の影響で、海は月へ引っ張られ、潮汐が生まれます。「上げ潮」、「下げ潮」のことです。潮汐による河川内の流れには特性があります。河川は一定量を海へ流れています。潮汐の上げ潮、下げ潮も一定量の変化です。したがって、上げ潮の時は河川の海への流れを抑えつつ河川内へ海水が入り、下げ潮の時は河川内に入った海水が戻る流れに加えて河川の海への流れが加えられます。海水と河川の水とでは比重の差があるため、海水は低層側、河川の水は表層側を流れます。ゆえに、表層では、河川の海への流れは上げ潮の時はゆっくりとした流れで、下げ潮の時は早い流れになります。
そこで、カイアシ類の動きに注目です。カイアシ類は、上げ潮のときに表層へ、下げ潮の時に低層へ移動することが確認されています(Fig. 2;上田 2005;Seuront 2006)。この動きはどのような効果をもたらすのでしょうか。上げ潮の時は、表層が遅く流れ、低層は早く流れます。底層にいると海へ流されてしまいます。逆に、下げ潮の時は、表層が早く、低層が遅いです。ゆえに、上げ潮の時に表層へ、下げ潮の時に低層へ移動することで、その場にとどまることができると考えられています。また、Seuront(2006)によると、塩分がある程度、高くなると上向きの遊泳を行なうようになるという。単に、塩分が高くなったから表層へ移動することが、定位機構につながっているのかもしれません。しかし、表層にいる抱卵した雌が魚に狙われやすいことや、底層の低温と少ない光量による成長速度の低下など、そこには複雑な要因があるに違いありません。
文 献
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