2021年10月29日
No. 33

Caligus undulatus ウオジラミ科カイアシ類 プランクトンとして採れた個体

ウオジラミというカイアシ類がいます。数 mm程度の大きさです。Caligidae(ウオジラミ科)に分類するカイアシ類のことを指します。名の通り、魚に寄生します。筆者はウオジラミの一種を東京、葛西臨海公園にて2021年8月28日にライトトラップによる夜間採集で採りました(記事 No. 30「東京湾に浮遊するウオジラミ、寄生性カイアシ類 魚から脱離した個体」)(Fig. 1, 2)。

葛西臨海公園(東京)でプランクトンとして採れたウオジラミCaligus undulatus雌個体
Fig. 1 葛西臨海公園(東京)でプランクトンとして採れたウオジラミCaligus undulatus雌個体(エタノール液浸標本;第1触角、部分欠損しているのは解剖をしたため)
葛西臨海公園(東京)でプランクトンとして採れたウオジラミCaligus undulatus雌個体
Fig. 2 葛西臨海公園(東京)でプランクトンとして採れたウオジラミCaligus undulatus雌個体

ウオジラミは日本に出現する種で、筆者調べで12科います(記事 No. 28)。今回の種は吸盤(lunules)を持つこと、叉状突起(sternal furca)を持つこと(Fig. 3)、頭胸部は扁平で胴体や生殖節に特徴的な構造がないことでCaligus属だと分かりました。

Caligus undulatus雌の頭部
Fig. 3 Caligus undulatus雌の頭部

Caligus属は大まかに6つの種グループに分かれます(Boxshall 2018; Ohtsuka & Boxshall 2019)。C. bonito-group、C. confusus-group、C. diaphanus-group、C. macarovi-group、C. productus-group、C. pseudorhombi-groupです。今回の種は、第4胸脚は3節(外肢2節)で構成し、その末端節に棘が4本(Fig. 4)、第1胸脚の末端節内縁の羽状刺毛(plumose setae)が3本(Fig. 5)、第2胸脚内肢の第2節内縁に大きな小歯が並ばないこと(Fig. 6)からC. pseudorhombi-groupだと分かりました。

Caligus undulatus雌の第4胸脚
Fig. 4 Caligus undulatus雌の第4胸脚
矢印は末端節の棘を指す
Caligus undulatus雌の第1胸脚末端
Fig. 5 Caligus undulatus雌の第1胸脚末端
矢印は末端節内縁の羽状刺毛を指す
Caligus undulatus雌の第2胸脚
Fig. 6 Caligus undulatus雌の第2胸脚
矢印は内肢内縁に大きな小歯が並ばないことを指す

筆者調べでC. pseudorhombi-groupは日本に出現する種で8種います(記事 No. 28)。今回で採れた個体は、頭胸部はやや細い楕円形、雌の生殖節はボトル型、雌の腹部の長さは生殖節の半分以上あることからCaligus undulatus Shen & Li, 1959と同定できました。種小名は生殖節後縁が波打つように隆起(undulate)することに因んでいるようです。日本(VenmathiMaran & Ohtsuka 2008; VenmathiMaran et.al. 2012; Ohtsuka et.al. 2020)、韓国(VenmathiMaran & Ohtsuka 2008)、中国(Shen & Lin 1959)、インド(Pillai 1966)、ブラジル(Montú 1982)、メキシコ(Suárez-Morales et.al. 2012)に分布します。体長は、雌で2.76-4.46 mm、雄で2.17-4.61と報告されています(VenmathiMaran & Ohtsuka 2008; VenmathiMaran et.al. 2012; Ohtsuka et.al. 2020)。今回の個体は雌3.93 mm、雄3.82 mmで、報告の範囲内でした。

筆者のプランクトン採集では、雌2個体、雄3個体でした。性比(雌/雄)で言うと0.60です。Ohtsukaら(2020)は、採集した43個体で性比0.43と報告しています。雌は抱卵するため、常に宿主から栄養をとらないといけないため浮遊しにくいとのことです(VenmathiMaran & Ohtsuka 2008)。

宿主はSardinella zunasi (Bleeker, 1854)(サッパ)です。C. undulatusの寄生強度(intensity)は1.0で、サッパ1個体にC. undulatusが1個体寄生するという割合です(Ohtsuka et.al. 2020)。C. undulatusの宿主が判明したのは2020年(Ohtsuka et.al.)です。記載されて61年経って宿主が分かったということです。宿主が報告されていないウオジラミは多少なりともいます(Ho & Lin 2004)。ただし、口器の形態は寄生向け(Kabata 1979)なので、宿主がいないはずがありません。宿主がまだ見つかっていないだけです。

C. undulatusはよく浮遊するという特徴をもちます。ウオジラミの中では最も浮遊するとのことです(VenmathiMaran et.al. 2012)。和名も「ウキウオジラミ」と呼ばれるほどです(長澤ら 2010)。雌成体も比較的浮遊します(性比0.43;Ohtsuka et.al. 2020)。他の浮遊しているウオジラミの性比(雌/雄)は0.25です(VenmathiMaran & Ohtsuka 2008)。C. undulatusが抱卵する卵の数は4-24個で他のウオジラミと比べると少ないです(Shen & Li 1959; VenmathiMaran & Ohtsuka 2008; Moon & Park 2019; Ohtsuka et.al. 2020)。浮遊個体では7-16個です(Ohtsuka et.al. 2020)。Ohtsukaら(2020)は、卵が多いとその分、摂餌が必要となり、宿主から離脱しにくいと予想しています。

なぜ、C. undulatusはよく浮遊するのか。Ohtsukaら(2020)は、サッパの生態と関係するのではないかと言及しています。サッパは沿岸と汽水を行き来します。生息する塩分範囲が広いということです。一般にウオジラミは低塩分に耐性はありません。養殖魚にウオジラミが寄生した際、淡水浴によりウオジラミを脱落させるという手法があるほどです(窪田 1967)。C. undulatusも低塩分に耐性がなく、サッパが汽水へ移動したときに脱離するのではないかというものです。実際に、C. undulatusが採れる場所は河川が流入する河口部です。例えば、山口県厚東川河口部、有明海筑後川河口部(VenmathiMaran & Ohtsuka 2008)、複数の河川が流れる香川県高松港(VenmathiMaran et.al. 2012)、広島県賀茂川河口部(Ohtsuka et.al. 2020)。筆者が採集した場所では塩分10‰でした。他の浮遊する理由に、宿主上の寄生個体の密度抵抗や他の寄生生物との相互作用など、生物学的要因と生殖・摂餌のトレードオフをあげています。

冒頭でCaligus属には6つの種グループがあると紹介しました。一方でC. undulatusを含める世界6種をC. undulatus-groupとする考え方もあります(Ohtsuka et.al. 2020)。通常のC. pseudorhombi-groupの特徴に加え、①第2触角の基部にある突起が小さいか欠損し、②吸盤(lunules)をそなえる背甲前縁(frontal plate)が比較的狭い、③雄の後体部は細長く2節で構成すると定義されます。C. undulatus-groupはよく浮遊するという共通の特徴をもちます。

文   献

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