カイアシ類の体制 カラヌス目カイアシ類の成長と体節
カラヌス(目)とは、カイアシ類を説明する上で代表にされる分類群です。海洋と陸水に生息する浮遊性の甲殻類で、大抵は体長1 mm程度。1 cm近くまでになる大型種もいます。
カラヌス目を含め、ほとんどのカイアシ類の生活史は、ノープリウス幼生を6期、コペポディット幼体を5期、成体となります。成体はコペポディット第6期にあたります。それぞれの成長段階は略称、N(ノープリウス期)、C(コペポディット期)と示され、ノープリウス第6期をNVI、コペポディット第6期をCVIとなります。
脱皮することで次の成長段階へ移行し、生涯で11回という決まった脱皮をします。とくに、CVIになるときの最後の脱皮を最終脱皮(final molting)と呼びます。
コペポディット期の場合、脱皮することで、肛門節と腹節の間に新しい体節ができ(Mauchline 1998)、脱皮1回で体節1つ増えていきます。それよりも前の体節は前へずれていきます。したがって、体節数を数えれば、どの成長段階なのか分かるのです。しかしながら、原則、胸節1つには胸脚1対が付属しますが、種によっては頭部と隣接する胸節、第1胸節ないし第2胸節が融合することがあります。なので、前体部の体節数を数えるには、胸脚を数えたほうが確実です。ただし、雌成体の場合、後体部の第1節と第2節は融合し、生殖複合節(genital double-somite)をつくるため、CVからの脱皮で体節数は増えないので注意です(雄成体は融合しないため、生殖節と呼ぶ)。Fig. 1にコペポディット期の各成長段階の胸脚の数と、後体部の体節数を示します。脱皮することで胸脚の外肢と内肢の節数が1つから増えていくので(千原・村野 1997)、それも成長段階の推定に参考できます。
実は、厳密にいうと、第1胸脚が付属する第1胸節は、本来は第2胸節で、その前にある付属肢、顎脚があるところが第1胸節です。カイアシ類では、第1胸節と頭部が融合しています(Ferrari & Dahms 2007;Mauchline 1998;Newman 1992;西村 1995)。便宜上、第1胸脚が付属している節を第1胸節としています。また、後体部の第1節と第2節は、それぞれ第7胸節と第1腹節です(Mauchline 1998)。雌成体の生殖複合節は、この2つの節が融合しています。「本来の体節」、「便宜上の体節」があることに留意してください。
今回の成長段階と体節数は、カラヌス目カラヌス科等、大抵の種の場合です。他科では前体部あるいは後体部の節が、頭部あるいは肛門節と融合していることがあります。他科で体節から成長段階を推定するには、生殖複合節が形成されている成体を探し、節融合の事情を知る必要があります。または文献、例として千原・村野(1997)で調べるのも手です。加えて、前体部と後体部の境界は目によって異なります。カラヌス目以外は、第4胸節と第5胸節の間にあります。カラヌス目とプラティコピア目は第5胸節と生殖節の間です。また、プラティコピア目は生殖複合節は形成しません。ただし、プラティコピア目は海底洞窟内に生息し、生態は未知の部分がほとんどな希少種ですので、気にする必要はないと思います。
文 献
Björnberg T K S (1972) Developmental stages of some tropical and subtropical planktonic marine copepods. Studies on the Fauna of Cruracao and other Caribbean Islands 40 (1): 1-185.
Ferrari F D, Dahms H-U (2007) Post-embryonic Development of the Copepoda. Brill. Boston. 229 pp.
Ferrari F D (1995) Six copepodid stages of Ridgewayia klausruetzleri, a new species of copepod crustacean (Ridgewayiidae: Calanoida) from the barrier reef in Belize, with comments on appendage development. Proc. Biol. Soc. Washington 108 (2): 180-200.
Mauchline J (1998) Advances in Marine Biology: The Biology of Calanoid Copepods. San Diego. Academic Press. 710 pp.
Newman W A (1992) Origin of maxillopoda. Acta Zool. 73 (5): 319-322.
西村三郎 (1995) 原色検索日本海岸動物図鑑[II]. 保育社. 大阪. 633 pp.
大塚 攻・田中隼人 (2020) 顎脚類(甲殻類)の分類と系統に関する研究の最近の動向. タクサ:日本動物分類学会誌 48: 49-62.
千原光雄・村野正昭 (1997) 日本産海洋プランクトン検索図説. 東海大学出版会. 東京. 1574 pp.