2019年6月15日
No. 11

NOTE

共生藻を利用して光合成をするカイアシ類

カイアシ類は主に浮遊性甲殻類として説明されることが多いが、浮遊性の他に、底生性、寄生性と様々な生活様式が存在する。

カイアシ類のひとつ、Xarifia属は、ハナヤサイサンゴというサンゴに寄生するグループとして知られている。ハナヤサイサンゴ1つに対してXarifiaが5個体、生息する密度である。

サンゴは炭酸カルシウムを骨格にする構造物で、その骨格を土台に無数の個虫(ポリプ)がいる。Xarifiaはこの個虫の胃水管腔に寄生する(Humes 1985)(Fig. 1)。ただし、ルーズな寄生で、出入りは可能のようだ。普通、異物などがサンゴに触れると、刺胞を使って攻撃し排除または捕食をするが、不思議なことにXarifiaには攻撃をしないという(Cheng and Dai 2009)。Xarifiaからは何らかの化学物質を出しているのではないかと考えられている。

Xarifiaの侵入経路
Fig. 1 Xarifiaの侵入経路

そんなXarifiaだが、なんと光合成をするというのである。サンゴには褐虫藻(Symbiodinium sp.)という藻類が共生しているが、褐虫藻が日光を浴びて光合成をし、サンゴへ光合成産物を提供するという関係がなっている。Xarifiaは個虫の胃水管腔で褐虫藻を摂取し、サンゴのように体内で光合成をしているのだ。Xarifiaは赤褐色を呈しているが、消化管内に褐虫藻がつまっているためである。筆者の調べでは、光合成をするカイアシ類は他にAcanthocyclops vernalisでも知られているが(Epp and Lewis 1981)、食べた植物プランクトンが偶発的に光合成をしているようにも捉え、光合成を利用しているのかは調べた限り分からなかった。

ChengとDai(2010)の実験を紹介したいと思う(Fig. 2)。サンゴから採集したXarifia fissilisを30個体ずつ明条件下と暗条件下、各30個体ずつ用意する。海水は栄養がなにもない滅菌海水である。25℃に設定し、3時間おきに海水交換をするという環境となる。各条件下で5日間、餌を与えない状態で飼育をした。その結果、暗条件下では30個体中すべての個体が死亡したが、明条件下では9個体が死亡したのみで、21個体が生存したという。明暗ではっきりとした生存率の差が出るという実験となった。光によって、消化管内の褐虫藻が光合成をして、光合成産物をXarifia fissilisに提供していることを証明するひとつとなった。

ChengとDai(2010)の実験
Fig. 2 ChengとDai(2010)の実験

褐虫藻はXarifia fissilisの体内で2週間の生存が可能だという(Cheng and Dai 2010)。消化管内の褐虫藻は粘液や消化物の残骸に包まれているが、その環境が、褐虫藻にとって良い環境となり得る。Acanthocyclops vernalisの場合でも、死後直後に、光を与えるだけで顕著な光合成を確認している(Epp and Lewis 1981)。共生には、消化管内の粘液と消化物の残骸がキーとなるかもしれない。

文   献

Cheng Y R, Dai C F (2008) Six species of Xarifia (Copepoda, Xarifiidae) new to Taiwan Pacific on the scleractinian corals. J. Fish. Soc. Taiwan 35 (2): 117-136.

Cheng Y R, Dai C F (2009) The infection process of the reef coral Stylophora pistillata by the parasitic copepod, Xarifia obesa. Coral Reefs 28: 681.

Cheng Y R, Dai C F (2010) Endosymbiotic copepods may feed on zooxanthellae from their coral host, Pocillopora damicornis. Coral Reefs 29: 13-18.

Epp R W, Lewis W M (1981) Photosynthesis in copepods. Science 214: 1349-1350.

Humes A G (1985) A review of the Xarifiidae (Copepoda, Poecilostomatoida), parasites of scleractinian corals in the Indo-Pacific. Bull. Mar. Sci. 36: 467-632.