2018年5月23日
No. 4

NOTE

カイアシ類の種数は30万種をこえるか!?

世界的な海洋生物の種リストをリアルタイムで管理しているウェブサイト「World Register of Marine Species (WoRMS) 」でカイアシ類の種数(acc. species)を調べてみると、2018年5月23日時点で11,368種となっている。カイアシ類の分類階級は「亜綱」だが、このレベルで、この種数は分類学的にとても大きいグループだ。1994年の時点で約11,500種が報告されていたが、現存する種の15%にすぎないと推測され(Humes 1994)、推定全種78,000種ということになる。1980年から種記載は急勾配で、現在もその衰えは見せない。そのため、推定全種に到達…いやはや突破するかもしれない。それも、30万種になるかもしれない。なぜ、突破すると言えるのか。これについては、隠蔽種(cryptic species)を踏まえてから考えてみたい。

種とはなにか・隠蔽種(cryptic species)とは

そもそも「種」の定義は、個体間で生殖が可能で、その子孫も生殖が可能、つまり世代をわたって繁殖ができることと一般的に用いられている。しかし、単純そうに見えて、現状はややこしいものである。「隠蔽種(cryptic species)」という言葉がある。「種内種」と言い換えられるだろうか。形態的には個体間で差は無いが、遺伝的に別種ということだ。遺伝子の研究が発達してきたゆえ、判明したことだと言える。本当に別種なのか。…だが、遺伝子は裏切らない。生息域を微妙にずらしており、生態もわずかに相違があるということを確かめた研究例もある(Chen and Hare 2008)。カイアシ類の場合、個体間でのミトコンドリアDNAのCOI領域に配列されている塩基が1~4%の違いがあったら同一種、9~24%の違いがあったら別種と言われている(Bucklin etal 2003)。近年でも同一種だと思われていた種が、複数種が含まれていたと判明したという例は数多くある。

推定全種に隠蔽種を加える

上述した推定全種は、種記載されるペースの度合いから推定される。その記載は隠蔽種が含まれていないため、隠蔽種を加えれば推定78,000種をはるかに上回るということである。隠蔽種の研究例では、大体3~5種が見つかっている(Chen and Hare 2011;Cornils etal 2017;Papadopoulos etal 2005)。中間値4種とすると30万種はこえるということになるのだ。

しかしながら、種の記載は原則、形態であるため、隠蔽種を種と考えることはむずかしい。実際には30万種、現存するかも知れないが、現在の記載方法だと、推定全種78,000種をこえる日は無いかもしれない。

文   献

Bucklin A, Frost BW, Bradford-Grieve J, Allen LD, Copley NJ (2003) Molecular ststematic and phylogenetic assessment of 34 calanoid copepod species of the Calanidae and Clausocalanidae. Mar. Bio. 142: 333-343.

Chen G, Hare MP (2008) Cryptic ecological diversification of a planktonic estuarine copepod, Acartia tonsa. Mol. Ecol. 17: 1451-1468.

Chen G, Hare MP (2011) Cryptic diversity and comparative phylogeography of the estuarine copepod Acartia tonsa on the US Atlantic coast. Mol. Ecol. 20: 2425-2441.

Cornils A, Wend-Heckmann B, Held C (2017) Global phylogeography of Oithona similis s.l. (Crustacea, Copepoda, Oithonidae) – A cosmopolitan plankton species or a complex of cryptic lineages? Mol. Phylogenet. Evol. 107: 473-485.

Humes AG (1994) How many copepods? Hydrobiologia 292/293: 1-7.

Papadopoulos LN, Peijinenburg KTCA, Luttikhuizen PC (2005) Phylogeography of the calanoid copepods Calanus helgolandicus and C. euxinus suggests Pleistocene diverfences between Atlantic, Mediterranean, and Black Sea populations. Mar. Bio. 147: 1351-1365.