2019年8月17日
No. 13

側線鱗に寄生するColobomatus属カイアシ類

カイアシ類とは、主に海水または淡水中に生息する微小な甲殻類のことだが、一部には他の生物に寄生する種もいる。その寄生する場所は、ゴカイ類の体表や魚類の体表、二枚貝の鰓、海藻の葉上はじょうなどと様々である。寄生種の中には形態を大きく変え、カイアシ類だとは思えないものもいる。今回、紹介するColobomatus属もそのひとつである。

シロギスの側線鱗に寄生するColobomatus westi

魚類、シロギスSillago japonicaからは、側線鱗そくせんりんに寄生するColobomatus westi Hayward, 1996を見つける事ができる。筆者は、側線鱗を止血鉗子しけつかんしで取り、シャーレに移して目視で確認した(Fig. 1;Fig. 2)。ただし、目視では慣れが必要で、ルーペ等を使用することをすすめる。

側線鱗に寄生しているC. westi
Fig. 1 側線鱗に寄生しているC. westi
側線鱗に寄生しているC. westi(拡大)
Fig. 2 側線鱗に寄生しているC. westi(拡大)

側線とは、魚類に備われている感覚器官のことで、列をつくって並んでいるため線状に見えることからそう呼ばれる。ひとつひとつの感覚器官には小孔しょうこうが空いた鱗、側線鱗がある。その小孔のなかにC. westiが入っている。

今回は3匹のシロギス、体長20.7cm、20.4cm、20.4cmから、それぞれ0個体、3個体、5個体のC. westiを確認できた。ほとんどのシロギスにC. westiが寄生していると思われる。側線管内は粘液が分泌されており、その粘液をC. westi摂餌せつじしているのかもしれない。

今回は側線鱗から見つけたが、他のColobomatus属の種は、頭部感覚器官などにも寄生する。採集方法に、「Double-netting」というものがある(Mandinabeitia and Nagasawa 2013)。興味があれば、参照されたい。

Philichthyidae科の概要

Colobomatus属はPhilichthyidae科に属する。Philichthyidae科は日本で6属18種(長澤ら 2016)、世界で9属72種が報告されている(WoRMS)。科レベルとしては比較的小さなグループである。Philichthyidae科の全てが寄生性で、海産硬骨魚類に寄生する。ただし、Colobomatus lamnae Hesse, 1873の1種だけは板鰓類ばんさいるいから報告されている。

宿主しゅくしゅの内部に隠れるようにして寄生するため、和名「カクレムシ」と呼ばれる(長澤ら 2016)。内部に寄生するのは珍しく、ほとんどは体表あるいは一部が体内に入った状態で寄生している。内部に寄生するのはPhilichthyidae科の特徴と言える。内部に寄生することから、宿主の外観から見つからない。それに加えて、体長は1 mm程度と小さいため発見されにくく、ゆえに知見は乏しい(Hayward 1996)。出版されている論文の多くは記載論文で、生態については一部しか分かっていない。

Colobomatus属の分類

Colobomatus属は、頭部に1対の角状突起かくじょうとっきがついていることから、和名「ツノカクレムシ」と呼ばれる(長澤ら 2016)。日本には10種が報告されている。しかし、現在、未同定の種がいくつか存在するため(Mandinabeitia et. al. 2013)、10種以上いることは確実である。以下に10種のリストと各宿主、形態を図に示す(Fig. 3)。なお、和名は長澤ら(2016)より。


  • Colobomatus absens Madinabeitia, Tang and Nagasawa, 2013(リュウキュウカクレムシ)
    • タカサゴの頭部感覚器官
  • Colobomatus acanthurid Madinabeitia, Tang and Nagasawa, 2013(クビヅマリカクレムシ)
    • モンツハギの頭部感覚器官
  • Colobomatus collettei Cressey, 1977(ナガクビカクレムシ)
    • ホシザヨリの頭部感覚器官
  • Colobomatus exilis Izawa, 1974(ホソミカクレムシ)
    • アカイサキの頭部感覚器官
  • Colobomatus fusiformis Izawa, 1974(イザワカクレムシ)
    • オニハタタテダイの頭部感覚器官
  • Colobomatus gymnocranii Madinabeitia, Tang and Nagasawa, 2013(バンザイカクレムシ)
    • メイチダイの頭部感覚器官
  • Colobomatus mylionus Fukui, 1965(クロダイカクレムシ)
    • クロダイ、キチヌ、ミナミクロダイの頭部感覚器官
  • Colobomatus pteroisi Madinabeitia, Tang and Nagasawa, 2013(ミナミカクレムシ)
    • ハナミノカサゴの頭部感覚器官
  • Colobomatus pupa Izawa, 1974(ヒメジカクレムシ)
    • オキナヒメジ、ホウライヒメジ、オジサンの頭部感覚器官と側線鱗
  • Colobomatus westi Hayward, 1996(トウヨウカクレムシ)
    • シロギスの側線鱗

--------

追記(2021.9.28)

  • Colobomatus itoui Uyeno and Nagasawa, 2021(カクレンボウ)
    • ゴマサバの頭部感覚器官

--------


日本産Colobomatus属全10種の形態
Fig. 3 日本産Colobomatus属全10種の形態

Colobomatus属の体制

Colobomatus属の体制をFig. 4に示す。メスは形態を大きく変えて、多くの場合、体節が消失する。カイアシ類だとは思わせない形態だが、退化的な付属肢ふぞくしを保持している。(参考記事「サンマヒジキムシ (Pennella sp.) にカイアシ類の要素はあるのか」)卵は尾部からぶら下げ、卵の数は50個~70個程度である(Essafi et.al.1983;Izawa 1974)。オスはカイアシ類らしい形態をしている。第3胸節きょうせつの後縁に大きな突起を付けているのが特徴である。メスでも言えることだが、胸脚きょうきゃくは3対しかない。普通は5~6対もっている。メスは全く動かないが、オスはよく動く。採集時に、宿主から泳ぎ出すことがあるそうだ。そのためなのか、宿主からメスと一緒にオスが見つかることは稀である(Romero and Muñoz 2011)。

Colobomatus属の体制
Fig. 4 Colobomatus属の体制

Colobomatus属の生態学

寄生生物の多くは、宿主特異性しゅくしゅとくいせいという性質をもつ。これは、ひとつの種の宿主とともに進化していくため、その宿主のみに適応し、ほかの生物には寄生できないというものである。Colobomatus属は決められた種の宿主に寄生するという強い宿主特異性があると思われていた(Grabda 1991)。しかし、実際には、数種あるいは数十種、科レベルまでの幅広い種に寄生し、宿主特異性は低いと指摘されている(Hayward 1996)。Colobomatus属の多くは、硬骨魚類の頭部感覚器官あるいは側線鱗に寄生するが、いずれも側線系で、狭い空間であることが寄生の要因なのかもしれない。

Colobomatus属の生活史は、Izawa(1975)によって、宿主に寄生するまでの一部が分かっている。雌成体はカイアシ類だとは思えない形態だが、ノープリウス幼生とコペポディット幼体はオスと共通して、カイアシ類らしい形態である。(参考記事「ヒジキムシ(ペンネラPennella sp.)の生活史」)驚くことに、卵から孵化後、宿主に寄生するまでの間は、何も摂餌しないというのだ。卵には栄養となる卵黄がとても豊富で、成体になるまでの栄養を卵黄から得ているという。室内飼育でも、水温を管理するだけでコペポディット幼体に移行する。その日数は5日で、一般的なカイアシ類の種の1ヶ月程度(Uye 1988)と比較すると極端に短縮されている。ノープリウス幼生は5期、コペポディット幼体は1期で構成され、その後の脱皮で成体になる。通常、ノープリウス幼生6期、コペポディット幼体5期なので、成長ステージも短縮されている。卵黄が豊富のせいか、ノープリウス幼生は丸々と肥えている。

近縁種Sarcotaces属の寄生実験

Colobomatus属の近縁種のSarcotaces属の一種、Sarcotaces pacificusの寄生実験(Izawa 1973)を紹介する。

その前に、まず、ユニークな名前を知っていただきたい。S. pacificusの和名は「コブトリジイサン(こぶとり爺さん)」と呼ばれる(長澤ら 2016)。この種はカエルアンコウAntennarius tridensに寄生するが、宿主体内でコブを形成し、コブの中に生息するという面白い種だ。そのコブが、おとぎ話の「こぶとり爺さん」を連想させることから、そう呼ばれる。

それでは、話を戻そう。Izawa(1973)は、8 cmの宿主カエルアンコウを入れた300 mLの水槽に、第1コペポディット幼体のS. pacificus、100個体を投入した。20分後にカエルアンコウを取り除き、水槽に残ったS. pacificusを数えると、10個体だったという。90%の個体が、カエルアンコウに寄生したということになる。第1コペポディット幼体は、ノープリウス幼生と比べると、泳ぎが活発で、寄生をするステージであることが示唆される。近縁種のColobomatus属でも同様な結果になることだろう。

文   献

Byrnes T, Cressey R (1986) A redescriptions of Colobomatus mylionus Fukui from Australian Acanthopagrus (Sparidae) (Crustacea: Copepoda: Philichthyidae). Proc. Biol. Soc. Wash. 99 (3): 388-391.

Essafi K, Hassine O K B, Boudaoud-Krissat K (1983) Colobomatus steenstrupi (Richiardi, 1876) and Colobomatus mulli n. sp. (Copepods: Philichthyidae), parasitic on fish of the genus Mullus (Mullidae) in the western Mediterranean. Syst. Parasitol. 5 (2): 135-142.

福井玉夫 (1965) 本邦産寄生性撓脚類の二、三について. 甲殻類の研究 2: 60-66.

Grabda J (1991) Marine Fish Parasitology: an outline. Weinheim, Germany. 286 pp.

Hayward C J (1996) Copepods of the genus Colobomatus (Poecilostomatoida: Philichthyidae) from fishes of the family Sillaginidae (Teleostei: Perciformes). J. Nat. His. 30: 1779-1798.

Izawa K (1973) On the development of parasitic copepoda I. Sarcotaces pacificus Komai (Cyclopoida: Philichthyidae). Publ. Seto Mar. Biol. Lab. 21 (2): 77-86.

Izawa K (1974) On three new species of Colobomatus (Cyclopoida: Philichthyidae) parasitic on Japanese fishes. Publ. Seto Mar. Biol. Lab. 21 (5-6): 335-343.

Izawa K (1975) On the development of parasitic copepoda II. Colobomatus pupa Izawa (Cyclopoida: Philichthyidae). Publ. Seto Mar. Biol. Lab. 22: 147-155.

Mandinabeitia I, Nagasawa K (2013) Double-netting: an alternative approach for the recovery of parasitic copepods from finfishes. J. Nat. His. 47: 5-12.

Mandinabeitia I, Tang D, Nagasawa K (2013) Four new species Colobomatus (Copepoda: Philichthyidae) parasitic in the lateral line system of marine finfishes captured off the Ryukyu Islands, Japan, with redescriptions of Colobomatus collettei Cressey, 1977 and Colobomatus pupa Izawa, 1974. J. Nat. His. 47: 563-583.

長澤和也, 上野大輔 (2016) 日本産魚類に寄生するカクレムシ科(新称)Philichthyidaeカイアシ類の目録(1924~2016年). 生物圏科学 55: 71-84.

Pereira A N, Timi J T, Lanfranchi A L, Luque J L (2012) A new species of Colobomatus (Copepoda, Philichthyidae) parasitic on Mullus argentinae (Percformes, Mullidae) from South American Atlantic coast. Acta Parasitol. 57 (3): 323-328.

Romero R C, Muñoz G (2011) Two new species of Colobomatus (Copepoda, Philichthyidae) parasitic on coastal fishes in Chilean waters. Crustaceana 84 (4): 385-400.

Uye S (1988) Temperature-dependent development and growth of Calanus sinicus (Copepoda: Calanoida) in the laboratory. Hydrobiologia 167 (1): 285-293.